『思春』
冬は去り、また廻り来る
・近江舞子著、短編集『思春』
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- 作者: 近江舞子,Deity's watchdog
- 出版社/メーカー: 密林社
- 発売日: 2012/05/06
- メディア: ムック
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「スケッチブック」
連作掌編形式。三人の少女がバトンリレーのように繋がり、少しだけ大人になる。
わたしはアリスです。嘘ではありません。今日からアリスになったのです。あの有名な不思議の国のアリスに。正統派の、ジョン・テニエルのそれではありませんが。齢十八歳にして絵に描いたような乙女をわたしは体現するに至ったのです。嗚呼、アリス、アリス、アリス。乙女のあこがれの塊。
「愛撫」
最愛の妻を亡くした男が取った行動とは、「人形」を愛することだった。
始まりと終わりはもしかしたら一緒なのかもしれない。
ひとつの儚げな光が消え逝くのを目の前にして、涙よりも前にそんな言葉を男は浮かべた。
あのとき、出逢ったあのときは終わりが来るなんて思っていなかった。しかし、振り返ってみれば、始まりが必然であるように終わりも必然だったのだ。
「マリア様のこころ」
僕は母にマリア様の姿を重ねて見ていた。そして、最愛の母の幸せを思い、僕は決意をする。
(まずい)
その言葉を僕はいつもそれと一緒に飲み込む。決して言いたくないから。感想は僕の心の中にそっと仕舞っておけばいい。母の愛を無駄にしたら可哀想だ。そうですよね、マリア様。
・黒澤丙様から感想をいただきました。
希望、狂気、罪と罰が螺旋階段を下る時の陶酔に似て、胸に響きました。
“近江舞子”さんだからこそ描ける世界観が、とても好きです。
これからも酔わせて下さい。
・ゆたさんから感想をいただきました。
http://d.hatena.ne.jp/SHADE/20120531#1338390297
・松尾憂雪様から感想をいただきました。
「思春」は近江さんの幾つかの側面を上手に集めた一冊となっていると思います。
近江さんの目指す、乙女の世界、狂気の世界、上手くバランスが取れていると思います。
近江さんの小説は、広い意味で、ライト・ノベルと云えると思います。
一般的な、狭い意味では、イラストを含んだ、娯楽小説がライトノベルですが、其ではありません。
大衆的な純文学、太宰治前後から、発生した、小説群です。
比較的、丁寧な作りで、短く述べる、そして、楽しめます。
「スケッチブック」「愛撫」「マリア様のこころ」どれも楽しめました。
特に印象的だったのは、「マリア様のこころ」でした。
社会的問題を扱う、此は文章を書く人の、努めの一つです。
「殺人を扱う」と云うのは、様々な時代で、問い続けられている大きな課題です。
カポーティー「冷血」、カミュ「異邦人」、ガルシア=マルケスなど、数え上げれば切が無いですが、常に大きな課題です。
其に一石投じる、近江さんの向上心を素敵だと思いました。
ディティールに、若干、物足りなさがありましたが、一つの読み物として面白かったです。
人が追い詰められて行く、其の感じ、其が書けていると思いました。
勿論、もっと、書けると思います。
然し、何処か気味が悪く、冷たい告白が続くのは、面白かったです。
カポーティの「冷血」は、偉大なる失敗、と私は感じます。此の手の物で、細かすぎて、崩壊してしまう、と云うのがあると云う、良い例に思われます。
兎に角、社会問題、今在る、其の狂気、其に触れるのは、大変な苦労でだと思います。
ふと思ったのは、社会的な事象を取り上げた時の、近江さんの鋭さは、独特の持ち味を持っていて、嶽本さんや、太宰治氏には無い、何処か、近江さんオリジナルの薫りがします。
私は、此の薫りが好きです。
以上です。