『Phantasmagoria』

 あなたが見た物語 わたしが見る物語
・掌編集『Phantasmagoria
・2012年11月18日開催、第十五回文学フリマ(サークル名「近江舞子」、ブース【イ-28】)にて刊行。初版完売。
・"FUCK THE BORDER LINE"がテーマ。好きな作家へのトリビュート作品を集めたアンソロジー近江舞子が「太宰治」を、森田紗英子が「浅田次郎」を、松永英明が「泉鏡花」を、泉由良が「江國香織」をカバーする。 
・価格:500円
Deity's watchdog(http://www.d-w-d.jp/)にて委託販売中。
Amazonでの販売はありません。

森田紗英子[@sae_tama] 「冬の旅」
Tribute to 浅田次郎――冬の旅

 大阪駅を出て能登へと向かう平日昼間の特急雷鳥の車内は静かで、仲間内で冬の温泉旅に行く年老いた団体か、都会の喧噪から逃れたそうな気むずかしい男がいるくらいだった。


近江舞子[@OUMI_MAICO] 「トランスベスタイト
Tribute to 太宰治――服装に就いて

 ほんの一時ならず、現在進行形で凝っていることがあります。服装に凝っているのです。否、凝っているという言葉では足りません。麻薬中毒のごとく深刻な状態です。もちろん、違法な薬物に手を染めたことなど、一度たりともないのですが。たとえば、姿見の前でゆうに三十分は過ごします。うまくコーディネートできないと発狂してしまいそうです。


松永英明[@kotono8] 「天空樹堀(てんくうじゅのほり)」
Tribute to 泉鏡花――特に天守物語、海神別荘、夜叉ヶ池

 黄色い衣装に身を包んだ若いバスガイドの女性が、水色に見える小旗を掲げて、住宅街とも商店街ともつかぬ、車の行き交う二車線道路の歩道を進んで橋のたもとへ近づき、それまでうつむき加減だったものを急に振り返って後続の旅行者たちに声を掛ける。


泉由良[@yuraco] 「雨、ぶどう、アイスミルク」
Tribute to 江國香織――いつか記憶からこぼれおちるとしても

 ずっと昔に愛読していた本のなかで『まっぷたつにしたら?』というものがあって、それはただ頁を捲ると延々と、野菜とその野菜を半分に切った断面の画が順繰りに並んで成り立っている絵本だった。私は幾度もその本を開いて様々を知った。例えば、たまねぎやきゃべつは薄い皮をずっとずっと剥いてゆくと小さくなり終わりがくることを。それから人参や馬鈴薯の断面のうっすらとした気配。トマトの断面図は種やじゅくじゅくした何か汁やうすきみどりのものが詰まっていて、私はその断面を羽を広げた蝶々に似ていると思っていた。きゅうりは外側もそうなのに輪切りになった中身は尚更につめたそうで、ピーマンはあっけないくらい(なにしろ私はピーマンが食事に出ると、大変な窮地に立たされていたのに、それなのに)からっぽだった。それからかぼちゃ。かぼちゃは種がぎっしりで、実の部分も律儀にみっしり詰まっていて、それは頼もしい、かぼちゃ。

・表紙