『深淵』

近江舞子著、短編集『深淵』は密林社さまの協力を得てAmazonで販売中。

深淵

深淵


・二編の小説を収録。
「罪の香りは芳しく」
 仮令、それが小さきものであっても罪を憎む男がいた。出逢った、罪を重ねる女たちを神に代わって次々に裁いていく男。その行き着く先は。
「たったひとり」
 表題通り、孤独を愛するたったひとりの男がいた。しかし、彼に寄せられた手紙から男の心は揺らぎ始める。


・黒澤丙様から感想をいただきました。

「罪の香りは芳しく」を読ませて戴いたのですが、本当に惹き付けられました。
 七つの大罪である女達と、「シン君」と云う男性の互いの駆け引きや会話の妙は凄いと想いました。
 甘くも残酷な官能的な描写に、読んで居る此方が、男女の秘密を覘き観た気がします。
 そして結末に到る場面で、この上ない慾望を果たした女性達の、ある種愉悦とも云える恍惚に浸る様が感ぜら
れました。
本当に、大好きな御話です。
 叉、「たったひとり」では、理解者を得られぬ青年と、青年を想う女性の、絡みそうで交わらない、どこと
なく切ない絆を感じました。
 理解者が一人でも居るのなら、人は幾らでも生きて往けるのだとも想いました。


・松尾憂雪様から感想を頂きました

嶽本野ばらさんと、太宰治さんが好きと伺いました。
本作「深淵」は其の意志を貫いた作に思えました。
甘美でどす黒い、人間の深淵を描く、と云う文芸作になったと思います。
どちらも謎のある作で、其等は読者には良いスパイスになったと思います。


罪の香りは芳ばしく、について
主人公の出生の謎と、行動動機の謎と、二つが程好く混ざった感じが致しました。
何処までも幽かな主人公が、罪に飲まれ飲み込まれる、享楽のある作と思いました。
前回亡骸が短編の幻想集の如き作集でしたから、長い作を楽しむのも良いと感じました。
私が思うに、太宰治の作風は、語り、だと思います。
近江さんの作風にも美文はありますね。
情景を上手く描いていて、ヴィジョニカルであると感じました。
内容をグロテクスに描かない所が、主人公の性格であると思えましたが、少しアッサリと書いていると思いました。
炎、月影、教会は印象的でした。


たったひとり について
美しき主人公は同じですが、謎が相手に傾く、と云うのは面白く読めました。
唯、感情の揺れが、やや、淡白に描かれている気がしました。
素っ気なくて、孤独な青年、其は描けていると思いました。
人物が描ければ、良しと私は考えます。
世界の終わりという名の雑貨店」や「カフェー」のシリーズにある、ヤンワリとした影、は近江さんに合っている気が致します。
徹底した写実、と云うのは無いので、描いても良いと感じましたが、ストーリーを読ませるには、ある程度仕方ないのかも知れません。
でも、書こうと思えば書ける余地、が残っている気が致しました。
文章に個性が滲む人は、結構好き勝手に書いても良い、と私は考えます。